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第一原理計算の応用
第一原理電子状態計算とは、多電子系のシュレーディンガー方程式を解いて様々な物質の解析や物理量の計算を行う手法である。電子系を扱う事が了解されている場合は単に「第一原理計算」と呼ぶことも多い。「第一原理電子状態計算」あるいは「第一原理計算」という呼称は、狭義には固体結晶や表面・界面など周期境界条件を課して行う計算を指し、分子について孤立境界条件での計算を行う化学分野では一般に「非経験的計算」という呼称が使われる。しかし本記事では両者を含む広い意味で「第一原理計算」と呼ぶことにする。
第一原理計算は産業界での研究開発にも広く利用されている。その場合「多電子系のシュレーディンガー方程式を解く」というアプローチを文字通り実行することはほぼ不可能で、現実的には密度汎函数理論(DFT)に基づく第一原理計算が行われる。DFTの概要についてはすでに多くの情報が世に溢れているので割愛したい。
DFTは、その基礎理論が今でも最先端の研究トピックとなる一方、OpenMXやQuantum ESPRESSO,VASP,GAUSSIANといったパッケージソフトウェアを用いた実際の応用計算も活発で、プラグマティックなシミュレーションツールという側面も持っている。またその適用範囲は非常に幅広く、物質科学のありとあらゆることに使えると言っても過言ではない。
以下に様々な分野で有用と思われる、DFTに基づく第一原理計算で得られる物性値や解析可能な事象(の一部)を列挙した。こんな事にも使えるのかというヒントになれば幸いである。
INTRODUCTION
DFTに基づく第一原理計算で得られる物性値や解析可能な事象
LIST
【その他】
ワニエ関数
ベリー曲率
チャーン数
【ナノ材料・低次元材料・分子科学】
原子構造
電子構造(状態密度、エネルギー準位)
光学応答
電気伝導度
励起エネルギー
【地球・宇宙】
惑星内部高圧環境下の結晶構造
【計測】
XRD
XPS
XANES
EELS
赤外分光
ラマン分光
ARPES
STM
AFM
NMR
【磁性材料・スピントロニクス】
磁気モーメント・飽和磁化
磁気異方性エネルギー
磁気構造(強磁性、反強磁性、ノンコリニア磁性)
交換結合定数
【創薬】
分子構造
結合エネルギー
【生物】
プロトン輸送
酵素反応
【光学材料・レーザー】
複素誘電関数(反射率、屈折率、吸収)
非線形光学定数
強レーザー場応答(高次高調波、絶縁破壊、実時間電子ダイナミクス)
【セラミックス】
弾性定数
分極(強誘電性)
圧電定数
【電池】
平衡電位
界面構造
イオン伝導(拡散係数)
【熱電】
ゼーベック係数