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PITE®️ - 量子化学計算の新時代 -

現状の量子コンピュータは量子ビット数が少なく、しかも雑音の影響が大きいため大規模な問題を取り扱うことができない。この制限の下で量子コンピュータを活用するために、古典コンピュータ(現在広く利用されている通常のコンピュータ)の併用を前提としたアルゴリズム、つまり量子-古典混合アルゴリズムの開発が進められている。中でも変分量子アルゴリズム(Variational Quantum Algorithm, VQA)と呼ばれる種類がすでに広く使われている。とはいえ今から十年後にはハードウェア技術の進歩によって誤り訂正が実装された多くの量子ビットを備えた量子コンピュータが登場して本格的な量子コンピュータ時代が始まると予測されている。そのような時代を見据えたアルゴリズムによって量子コンピュータが真価を発揮できるようにすれば、古典コンピュータでは不可能な計算が量子コンピュータならば可能になる。我々は最近、古典コンピュータの併用を前提としない一般的な非変分アルゴリズムとして確率的虚時間発展法(Probabilistic Imaginary-Time Evolution, PITE®️)を提案した。[Kosugi et al., Phys. Rev. Research 4, 033121 (2022)] 使用者により導入される変分回路が想定する範囲内でしか量子状態を最適化できないVQAとは異なり、PITE®️は真の量子最適化を実行できるのが特長の一つである。図1はPITE回路の模式図である。

 

PITE®の有望な適用分野の一つは量子化学計算である。特に構造最適化、つまり複数の候補分子の中から最適構造を見出す計算をPITE®️ならば古典コンピュータよりも効率的に実行できることを我々は示した[Kosugi et al., arXiv:2210.09883, Nishi et al., arXiv:2308.03605]。図2は簡単な例として、共通の組成式C2H6Oを持つ四つの分子のPITE®️に基づく構造最適化がどのように進行するかを描いたものである。まず各候補構造を表現する量子ビット状態の量子重ね合わせ状態を生成して初期状態とする。この状態には四つの候補構造がすべて同じ比率で含まれている。この初期状態から出発してPITE計算を実行する。図1にある回路の一回の適用はPITEステップと呼ばれる。初回のPITEステップにより最適でない三つの構造は比率が下がる。二回目のステップによって三つの構造の比率はさらに下がる。そのため多数回のステップを施した後は、非最適構造の比率は無視できるほど小さくなっており、最適構造は相対的に比率が大きくなっている。ここで重要なことは、量子コンピュータの使用者はこの時点ではどの構造の比率が小さいとか大きいとかをまったく知らないということである。多数回のPITEステップが完了した後の量子ビットに対して測定を行うと最も比率が大きい状態(図2にあるStructure2)が高確率で観測される。これによって初めて量子コンピュータの使用者はStructure2が最適であると知る。このような最適構造最適化の手法は量子コンピュータでなければ不可能であり、しかも古典コンピュータよりも効率的であることを我々は発見した。

PITE®️は一般的な手法であるため量子化学以外の分野への応用も可能である。近い将来に訪れる本格的な量子コンピュータ時代における標準的な技術としてPITE®️は有望である。

INTRODUCTION

図1. PITE®️のための量子回路の模式図

図2. PITE®️ に基づく分子構造の最適化の例

SimPITE

当社が開発したSimPITEは、PITE®️を用いて量子系の基底状態を出力する量子コンピュータのシミュレーションプログラムで、非営利目的および学術研究目的のアカデミアの方には無料公開しています。
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