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Quloud-Mag解説(2)Quloud-Magで提供される技術
INTRODUCTION
MULTISCALE
Quloud-Magで提供される磁性材料開発のためのマルチスケールシミュレーション
Quloud-Magでは、世界唯一の新規磁性材料開発のためのマルチスケールシミュレーションを提供しています。Quloud-Magでは、第一原理材料計算と経験論的材料シミュレーションを接続させることに成功し、第一原理材料計算からマルチスケールシミュレーションのためのパラメータを抽出し、その抽出されたパラメータを用いて経験論的材料シミュレーションを実施することにより、実験値なしに、有限温度での磁性材料の振る舞いや、ナノ粒子径の磁気特性をシミュレーションすることができる世界唯一のシミュレーションソフトになっております。さらには、後ほど説明するデータ同化技術という技術も提供されるソフトになっております。
図には、シミュレーションのフローを示しています。まず、シミュレーションしたい物質の結晶構造を入力します。結晶構造の情報がわからなくては、シミュレーションはスタートできません。結晶構造の入力情報を基に、第一原理材料シミュレーションが走ります。第一原理材料シミュレーションでは、密度汎関数(DFT)計算が実行され、結晶構造以外の物質に関する情報は不要です。密度汎関数計算では、絶対零度での磁気モーメントや磁気異方性といった物理量を計算することができます。さらには、その後の経験論的材料シミュレーションのために必要な3つのパラメータ、交換相互作用Jij、ジャロンシンスキー守谷相互作用Dij、ギルバートダンピングパラメータを入手します。続いての経験論的材料シミュレーションは、2つから構成されます。1つはモンテカルロシミュレーション、もう1つはマイクロマグネティックシミュレーションです。まずは、モンテカルロシミュレーションに関して説明します。第一原理材料シミュレーションで得られた、磁気モーメント、磁気異方性、交換相互作用Jij、ジャロンシンスキー守谷相互作用Dijという量を用いてハイゼンベルグハミルトニアンと呼ばれるものを構築し、経験論的運動方程式が導かれます。導かれた運動方程式に従って、モンテカルロシミュレーションと呼ばれるシミュレーションが実行され、第一原理材料シミュレーションでは取り込まれなかった有限温度の効果が取り込まれることになります。モンテカルロシミュレーションによって、磁気モーメントや磁化曲線、磁化率、磁気異方性、比熱、エントロピー変化、断熱温度変化、電気抵抗の温度依存性がシミュレートされ、これによりキュリー温度やネール温度(磁気特性が消失する物質固有な温度)が求められることになります。ここまでくると初めて、室温での磁性材料の振る舞いというものが予言されることになります。ただ、通常、モンテカルロシミュレーションで扱えるサイズはせいぜい10ナノメートル程度です。一方で、磁性材料の磁気特性を計算する際に考慮に入れるべきもう1つ重要になってくる要素として磁壁というものがあります。磁性材料において、磁気モーメントが揃ったある領域・ドメインを磁区と呼び、磁区の境界には磁壁と呼ばれる磁気構造が形成され、隣り合う磁区同士を隔てる、まさに“壁”のような構造を持っています。外から磁場が印加された際には、この磁壁が動き、それぞれの磁区の大きさが変わって外部磁場への応答を示します。ですので、この磁壁の動きやすさが磁気特性に影響を及ぼす1つの指標になるわけです。磁壁が動きやすいとそれだけ外部磁場に対する応答が速くなります。シミュレーションではこの磁壁の動きやすさを考慮に入れる必要があるのです。ちなみに、磁区の典型的なスケールは100ナノメートル〜1マイクロメートル程度であり、磁壁の運動を考慮した磁気特性シミュレーションをしようとすると、数マイクロメートルの大きさのシミュレーションを行わなくてはなりません。先ほど言いましたが、今のコンピュータではモンテカルロシミュレーションはせいぜい10ナノメートル程度までしか扱うことができませんので、もう少し大きなサイズのシミュレーションを実行する必要があります。そこで、もう1段大きなスケールの経験論的シミュレーションであるマイクロマグネティックシミュレーションへの接続が必要になります。実際に、モンテカルロシミュレーションから出力されるパラメータである交換スティフネスと、第一原理材料シミュレーションから出力されるパラメータであるギルバートダンピングを入力し、マイクロマグネティックシミュレーションが実行されます。マイクロマグネティックシミュレーションでは、磁壁の動きまで含めた磁気特性シミュレーションが可能となり、ヒステリシス曲線や複素透磁率といった物理量がシミュレーションされます。特に近年では、この複素透磁率が省エネデバイス設計に重要な物理量であり、大きく注目がされている物理量になります。また、Quloud-Magがマルチスケールシミュレーションであることにより、複素透磁率といった物理量が第一原理的にシミュレーションすることができる材料シミュレーションソフトとなっており、世界に無二なものになっています。これがどの程度、実験値を再現するかは第3部の実際の計算結果紹介を見ていただけたらと思います。
ASSIMILATION
Quloud-Magで提供されるもう1つの機能:データ同化技術
Quloud-Magは、第一原理シミュレーションと経験論的シミュレーションを接続させた世界唯一のソフトであることを説明してきました。ここでは、もう1つのQuloud-Magの重要な機能である、データ同化技術に関して解説します。Quloud-Magでは、第一原理材料シミュレーションとして、密度汎関数理論を用いております。この密度汎関数理論は高精度であることが知られているのですが、それでも近似を用いるが故、実験との完全一致とはいかないのが実際です。例えば、キュリー温度としては、最大20%程度のズレが生じてしまいます。実際のところ20%のズレ程度で済んでいるだけでもすごいのですが。多くの場合、不純物を加えていったときに、このキュリー温度がどのように変わってくるかといった“相対的な”振る舞いに興味があったりしますので、こうしたズレがあっても通常は相対的な振る舞いに注目をすることで、新物質予言に使われています。しかし時には、既に実験的に合成されているある物質に対して、ある特定の物理量を“できる限り定量的に正確に”知りたいというニーズもあります。そのような時に使える機能がデータ同化技術です。比較的簡単に手に入る実験値、例えばキュリー温度とかある温度での磁気モーメントなど、が入力されると、シミュレーション結果が入力された実験結果と整合するように経験論的材料シミュレーションの入力パラメータがフィードバックされる仕組みになっています。これによって、実験結果を再現するようになりシミュレーション全体の精度が向上することになります。重要なこととして、一度一部の物理量が実験を再現するようにアップデートされると、その影響は他の物理量にも及び、他の物理量の精度もグンと向上します。データ同化技術は元々天気予報で導入された手法で、シミュレーションの精度を向上させるテクニックとして開発されたものになっています。