【プレスリリース】非線形方程式の計算を量子コンピュータで指数関数的に加速 ~Quemixと住友ゴム、結果の読み出しを迅速にする新手法を開発~
- 田中拓哉
- 2 時間前
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株式会社Quemix
量子コンピュータのアルゴリズム・ソフトウェアの研究開発を行う株式会社 Quemix(本社:東京都中央区日本橋 代表:松下 雄一郎、以下 Quemix)と、住友ゴム工業株式会社(社長:山本悟、以下 住友ゴム)は共同研究の成果として、量子コンピュータによる非線形方程式の計算を指数関数的に加速※1することに成功しました。この成果は、両社が新たに開発した量子計算結果の読み出しを迅速かつ低コストで行う手法によって初めて実現したものであり、量子計算の実用化を大きく前進させるものです。
今後、共同研究をさらに進めることで、この手法を実用化へとつなげ、住友ゴムが注力する高機能ゴムなど材料開発のスピードを格段に向上できると期待しています。

モーターサイクル走行時の風の流れの読み出し結果
量子コンピュータは、従来のコンピュータでは膨大な時間を要する計算を並列的に処理できることから、材料開発や金融、流体解析などの分野で注目されています。しかし、その実用化には「読み出し問題」と呼ばれる技術的課題がありました。量子計算自体は高速に行えるものの、計算結果を数値として正確に取り出す際に膨大なコストが発生し、その過程で量子計算の優位性が失われてしまいます。このため、CAE(Computer-Aided Engineering、コンピュータによる開発支援)分野において量子計算が本当に優位性を発揮できるかについては、学術界・産業界の双方で懐疑的な見方が少なくありませんでした。
特にこの「読み出し問題」が深刻に影響していたのが、非線形方程式の解法です。非線形方程式とは、入力と出力の関係が単純な比例(直線)ではなく、複雑な相互作用を含む数式を指します。構造物の変形、流体の渦、熱の伝わり方など、実世界で起こる多くの物理現象を再現するCAE解析の中心的な課題であり、産業界では「最も計算負荷の高い領域」の一つとされています。従来の量子アルゴリズムでも理論上は高速化の可能性が示されていましたが、結果を取り出すたびに状態測定を繰り返す必要があり、実際には高速化のメリットを活かせない状況が続いていました。
両社は共同研究を通じて、そうした長年の課題に実用的な解決策を見出すことに成功しました。量子計算の関数に含まれる波形や周期的な特徴(フーリエ係数など)を効率的に抽出し、少数の主要成分から解を再構成することで、データ量が増えても処理効率を維持し、大規模シミュレーションにも対応できる読み出しを可能にしました。この新手法により、非線形方程式の計算において量子コンピュータが持つ理論的な高速性を実際の計算で発揮することが可能となり、読み出し問題を克服して指数関数的な加速を実証しました。

非線形方程式における従来手法と新手法の計算結果の比較
(今回の実証に用いたバーガース方程式(※2)の計算結果。図は上から下へ計算ステップが進んでいく過程を示す。)
両社は今回の成果を、量子計算を「理論的可能性」から「実現可能性」へと近づける意義のある一歩として捉えています。特に、材料特性解析、流体シミュレーション、金融リスク評価など膨大な計算資源を必要とする領域において、量子コンピュータが実際に競争力を発揮する未来を具体的に描くことが可能になります。今後、量子アルゴリズム※3の設計において、「計算手法」に加えて「読み出しプロトコル※4」までを含めた議論が進み、産業応用に直結する研究の加速が期待されます。また、今回の共同研究を通じて、高分子の構造解析に用いられる計算手法である高分子SCFT(Self-Consistent Field Theory)計算※5のスピードにおいても指数関数的な加速を確認することができました。
なお、このたびの共同研究成果は2025年12月9~11日に米国カリフォルニア州サンタクララコンベンションセンターで開催される量子技術の国際的なカンファレンスである「Q2B 2025 Silicon Vallery」にて当社と住友ゴムの研究者がキーノートセッションに登壇し発表する予定です。
Q2B 2025 Silicon Valley
株式会社Quemixについて
Quemixは、株式会社テラスカイ(本社:東京都中央区、代表取締役:佐藤 秀哉)の連結子会社で、量子コンピュータ、量子センサ、材料計算関連の研究開発を行っています。「量子技術で人類が夢見た未来を実現する」というビジョン実現のため量子技術で時代をリードする企業のブレークスルーを支援していくことをミッションに、2019年の会社設立時より誤り耐性量子コンピュータ(FTQC)向けのアルゴリズムにフォーカスした研究開発をしており、量子化学計算アルゴリズムとして数学的に量子加速が証明された「確率的虚時間発展法(Probabilistic Imaginary-Time Evolution、PITE®)」を開発・特許取得しております。日本におけるFTQCアルゴリズム研究分野をリードするQuemixでは2028年を目標に材料計算・シミュレーション領域における量子コンピュータ実用化に向けて鋭意研究開発を進めております。
※1 計算したい問題サイズが大きくなるにつれて、計算時間が従来手法に比べて指数関数的に加速されること。
※2 流体力学における代表的な非線形偏微分方程式
※3 量子力学の性質を活用した計算手法。従来と比べて高速な処理が可能で、幅広い分野で応用が期待される技術。
※4 量子状態を測定し、計算結果を取得するための手順。量子情報の正確な読み取りに必要な技術。
※5 高分子材料の構造や性質を予測する理論計算。分子の自己組織化やナノ構造の解析に活用される。
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